東西食肉文化の違い

東西食肉文化の違いについて総務省統計局のデータなどを交えながら実証的にわかりやすく解説しています。

「東豚西牛」なる食肉文化の地域差

カレーライスに入れるお肉といえば・・

カレーライスに入れるお肉といえば私の住んでいる関西では牛肉と相場が決まっていますが、関東では豚肉を入れるのが普通だそうでそれは牛肉を入れたカレーライスを関東ではビーフカレーと区別して呼んでいることからもカレーに入れる肉は豚なんだということがうかがえます。

東西の食肉文化の違いがわかるカレーライス

同様にコンビニでよく売っている肉まんのことを関西では肉まんと言わずに豚まんと呼んでいるのも関西では肉といえば牛肉のことをさすので牛肉ではなく豚肉が入っているからあえて豚まんと呼んでいるのです。

これは「東の豚肉、西の牛肉」といわれるように東日本では豚肉を食べる頻度が関西よりも多く、西日本では関東よりも牛肉を食べる頻度が多いという東西の食肉文化の違いからきていることによるものです。

東の豚肉、西の牛肉

「東の豚肉、西の牛肉」は下記の総務省統計局の資料を見ても一目瞭然です。

関東三都市(東京都区内、横浜市、千葉市)の食肉の種類別購入量

 牛  豚  鶏
  東京 6,219 19,445 14,518
  横浜 6,431 22,292 15,601
  千葉 5,988 19,687 14,247
  平均 6,212(15.0%) 20,475(49.4%) 14,789(35.6%)

関西三都市(大阪市、京都市、神戸市)の食肉の種類別購入量

 牛  豚  鶏
  大阪 9,701 17,225 15,911
  京都 10,213 17,278 16,494
  神戸 8,500 16,712 16,695
  平均 9,471(22.0%) 17,072(39.8%) 16,367(38.2%)

総務省統計局「家計調査(二人以上の世帯) 品目別都道府県庁所在市及び政令指定都市(※)ランキング」(2013年~2015年平均 単位:グラム) %の表示は牛、豚、鶏の食肉全体に占める割合

とりわけ牛肉に関しては関東と関西の三都市では関東の平均購入数量が6,212グラムに対して関西の三都市の平均は9,471グラムと約1.5倍もの開きがあります。

やはり関西は三重の松阪牛、滋賀の近江牛、兵庫の神戸ビーフと日本三大和牛の生産地を控えていてそれが少なからず影響していると思われます。

豚肉では金額ベースですが、全国上位3位に横浜市(32,303円)、相模原市(30,764円)、川崎市(30,756円)と神奈川県内の3都市が名を連ねています。

これは綾瀬や藤沢などの旧高座群や厚木市などで昔から養豚業が盛んだったこと(高座豚や厚木豚は古くからの有名ブランドですね)でその地元県内の一大消費地であることが多分に影響していると思われます。

豚肉に関しては関東の平均が20,475グラムに対して関西の三都市の平均は17,072グラムと3,403グラム程度関東の方が購入量が多く、豚肉は牛肉より比較的安価な食肉なので、関東も関西も豚肉の購入量が食肉の中で一番多いのは当然の結果となります。

ただ食肉全体に占める割合でみると豚肉は関西三都市の平均が39.8%に対し、関東の三都市の平均では49.4%と10%近い開きがあります。

食肉文化の違いをもたらした「東の馬、西の牛」

「東の豚肉、西の牛肉」で表現されるような日本東西の食肉文化の違いが依然として見受けられるのは、日本では中世以来、農耕や運搬用の役畜は、東日本では主に馬が用いられ、西日本では牛が用いられていたという事情によるところが大きいといわれています。

現に中世では延慶3年(1310年)の「国牛十図」では「馬は東関をもちて先とし、牛は西国を以てもととす」と記載されているように使役する家畜で「東の馬、西の牛」の分化が進んでいたことがわかります。

また江戸時代においても当時を代表する浮世絵画家、歌川広重の代表作「東海道五十三次」の浮世絵には、神奈川の戸塚宿、静岡の藤枝宿で馬が描かれ、愛知の知立宿においては二十頭余りの馬の集まる馬市の様子も描かれていて、それが西にいくと滋賀県へ向かう手前の鈴鹿峠の坂下宿では崖上の茶屋へと向かう坂道を上る牛の姿が登場するようになります。

なぜ「東の馬、西の牛」だったのか

それでは農耕や運搬用の役畜がなぜ東日本は馬で西日本は牛だったのかというのにはいくつかの要因が考えられます。

大陸文化が先行して入ってきた西日本では条里制水田が広く開拓されていて牛車や犂耕が普及していったことや、中世になってからは東日本の武士団が騎馬を重要視するようになったことなどの歴史的背景によるもの。

東日本に多い寒冷地では農耕適期が短いので動きの速い馬の方が使役しやすかったことに加え、馬の厩肥(うまやごえ)は発酵したときの温度が牛のものよりも6℃も高く、地面の熱を上昇させる効果があって寒冷地に適していたこと。

▷ 寒冷で農耕適期の短い地域の多い東日本と違って比較的温暖な気候の西日本では農耕適期がタイトではないので動きが遅くともパワーのある牛の方が生産性を高めることができた。

以上の要因があげられますが、このようにかつて農耕や運搬用に飼育されていた家畜が東日本では馬、西日本では牛が中心だったので、西日本では役用で飼育されていた牛をそのまま品種改良等を重ねて食肉にするために肥育するようになり、松阪牛や神戸ビーフ、近江牛を始め多くの和牛の生産地が生まれ、地元の関西を中心に西日本の多くの地域では牛肉を食べる文化が根付いていったのです。

なぜ東日本では馬ではなく豚が食肉になったのか

西日本では役牛として飼育されていた牛がそのまま食肉用として肥育されていったのに対し、東日本では馬が食肉用として定着することはありませんでした。(但し青森県や長野県などでは馬肉食の習慣が根強い)

その理由として、馬はもともと肉量が少ないので食肉用として飼育するには生産性が悪いという点や、明治以降の西洋肉食文化の普及や政府による畜産業の推奨により、神奈川県の綾瀬や藤沢などの旧高座群地域で養豚業が勃興し、更に関東大震災後の養豚ブームで関東地域を中心に豚肉の生産が盛んになったことなどが影響しています。

東西の食肉の地域差を更に詳しく見ると

日本の東西食肉文化の違いについては「東豚西牛」と概ね表現されていますが、実際のところは鶏肉を含めて更に細かい地域差があります。

総務省統計局の家計調査データに基づいて作成した「肉類消費の都市別(県庁所在地)パターン」を参考にすると食肉の地域差は、北海道、東北(山形を除く)、関東、中部の東日本と沖縄の「豚肉型」、山形の「準豚肉型」、金沢、岐阜、名古屋などの「折衷型」、福井や津も含めた関西地方の「牛肉型」、松江を除く中国・四国地方の「準牛肉型」、松江と九州の「鶏肉型」と更に六つの型に分類されます。

九州は鶏肉文化圏

西日本でも九州は「東豚西牛」でくくることが難しい「鶏肉型」に分類され、現に総務省統計局「家計調査」の2013年~2015年の鶏肉の平均購入数量では1位の福岡を筆頭に2位の熊本、4位の大分、7位の宮崎、8位の鹿児島、10位の長崎と九州の県庁所在地が佐賀を除いてすべて入っています。

中でも福岡は購入数量、金額とも全国一位で年間平均20,874グラムと20キロを超え、関東の群馬県前橋市の購入数量10,745グラムの2倍近い鶏肉を消費していることになります。

鶏出荷数は2013年の農林水産省の統計資料によると全国1位の鹿児島県が全体の19.8%、2位の宮崎県が18.9%を占め、この二県で約2億6千万羽の鶏が出荷されており、鹿児島、宮崎は全国でも屈指の一大生産地です。

九州地方ではメインの食肉の鶏
出典:http://www.ookawabussan.co.jp/

また、鶏肉文化圏だけあって九州には色々な鶏料理があり、福岡の鶏の水炊きや筑前煮、大分、別府のとり天、大分県中津市、宇佐市の唐揚げ、炊き立てのご飯に混ぜる鶏めしなどが有名で、南九州では鶏の「たたき」や「煮しめ」などは正月やお盆の定番料理だそうです。

東西の食肉文化の違いで感じたこと

このように同じ日本でも「東豚西牛」で表現される東西日本における食肉文化の違い、更には九州の鶏肉文化圏と、いくつもの食肉文化の歴然とした地域差がこの21世紀のインターネット網の発達した現代社会においてもみられるのは正直驚きです。

食肉文化の違いを単なる興味本位ではなく、その地域の歴史的な背景や気候、風土などと併せて理解すると更にその地域に対する興味もわいてきて、益々知識が豊かになる以外にも、その地域で展開するためのビジネスのヒントや種の発見にもつながっていくのではないかと思います。